『弘明集』を読む(25)
牟子『理惑論』(16)仏伝⑤
たいしに さんじゅうにそう はちじゅっしゅごう あり
太子に三十二相、八十種好(1)有り。
太子には、三十二相・八十種好〔という、聖人の相〕が現れていた。
- 【三十二相、八十種好】三十二相は転輪聖王(理想的な帝王)または仏にそなわるとされる32種の特徴。八十種好は仏や菩薩に見られるとされる80種の特徴。
しんちょう じょうろく からだ みな こんじき いただきに にっけい あり
身長丈六(1)、体皆金色、頂に肉髻(2)有り、
身長は、一丈六尺(4.8m)、体は黄金に輝いていた。頭のてっぺんには肉のコブがあり、
- 【丈六】「一丈六尺」の意。丈も尺も中国や日本で使われた長さの単位。1丈=約3m、1尺=約30cnなので、1丈6尺は3m+(30cm×6)=4.8mである。
- 【肉髻】仏の頭頂部にある肉の隆起。三十二相のひとつ。
きょうしゃ ししの ごとし
頬車獅子の如し(1)。
頬はライオンのように〔豊かにふくらんで〕いた。
- 【頬車獅子の如し】頬が獅子のように豊かにふくらんでいること。三十二相のひとつ。
した みずから おもてを おおい てに せんぷくりんを にぎり
舌自ら面を覆ひ、手に千輻輪(1)を把り、
舌を伸ばせば、自らの顔を覆うほどであり、手のひらには車輪のような手相が刻まれており、
- 【千輻輪】「輻」は車輪の中央から外側の輪に向かって放射状に出ている棒。これが千本ある車輪のこと。
ちょうこう ばんりを てらす
頂光万里を照す。
頭のてっぺんから発せられる光は、万里を照らした。
これ りゃくして その そうを もうけるなり
此れ略して其の相を設けるなり。
これが簡単に言えば、仏の〔高貴なる〕みすがたである。
《今回のポイント》
ここでは、太子の姿かたちの説明をしている。ただ、身長が4.8mというのは、高すぎる。しかし、後世の仏教徒は、これを信じていた。日本にある仏像も、丈六で作られているものが多い。それらはだいたいは坐しているが、立ち上がると4.8mになるように作られている。また、太子は奇異な相を持つとされているが、それだけ滅多に現れることのない者であり、偉大なる人物という意味である。