『弘明集』を読む(24)
牟子『理惑論』(15)仏伝④
ときに てんち おおいに うごき きゅうちゅう みな あきらかなり
時に天地大いに動き、宮中皆明かなり。
そのとき、天地が激しく震動し、宮殿のなかまで一気に明るくなった。
そのひ おうけの しょうえも また いちじを うむ
其の日王家の青衣(1)も復た一児を産む。
その日、〔釈迦族の王家の〕女奴隷が一人の赤ちゃんを産み、
- 【青衣】奴隷の別名。
きゅうちゅうの はくばも また はっくを にゅうす
厩中の白馬も亦白駒(1)を乳す。
厩舎の白馬もまた一頭の白い仔馬を産んだ。
- 【白駒】白い馬。ここでは白馬が生んだ白い子馬を指す。
ぬ あざなは しゃのく うまを けんだかと いう
奴字(1)は車匿(2)、馬を揵陟(3)と曰ふ。
その女奴隷の息子の名は車匿(チャンダカ)、白い仔馬の名は揵陟(カンタカ)と言った。
- 【字】本名以外に付ける名前。あだ名。
- 【車匿】太子時代の釈尊に付き従ったしもべの名前。サンスクリット語ではチャンダカという。のちに出家するも、傲慢な性格で教団の規律をしばしば乱した。釈尊が入滅するとき彼に対して懲戒処分を与えたことによりショックを受け、それ以降は心を入れ替えて修行し阿羅漢果を得たという。
- 【揵陟】太子時代の釈尊の愛馬。サンスクリット語ではカンタカ。
おう つねに たいしに したがわしむ
王常に太子に随はしむ。
白浄王(浄飯王)は〔車匿(チャンダカ)と揵陟(カンタカ)を〕つねに太子に付き従わせた。
《今回のポイント》
天地が震動する、というのは、珍しいことが起きたということの比喩表現である。たとえば、法華経が説かれようとするとき、やはり地震が起きている。また、同じ日に奴隷と白馬が産まれており、彼らは釈尊に付き従うことになる。ここでは、その奴隷と白馬の紹介をしている。