Buddhist Narratology Laboratory

「答えのない時代に、共に答えを作る」をモットーに仏典を読んでいきます。

2021-01-01から1年間の記事一覧

『弘明集』を読む(29)

牟子『理惑論』(20)仏伝⑨ たいし いわく ばんぶつは むじょうなり太子曰く、万物は無常(1)なり。太子は、〔白浄(浄飯)王に次のように〕答えた。「あらゆるものは、永遠なものではありません。 【無常】固定した実体がなく、とどまることなく移り変わるこ…

『弘明集』を読む(28)

牟子『理惑論』(19)仏伝⑧ みょうにち かくねんとして しょざいを しらず明日廊然(1)として所在を知らず。次の日、〔太子の部屋は〕がらんとして誰もいなくなっていた。 【廊然】大空のからりと晴れあがったさま。ここでは、太子が消えて、がらんとして人の…

『弘明集』を読む(27)

牟子『理惑論』(18)仏伝⑦ ふおう たいしを ちんいとし ために きゅうかんを おこし父王、太子を珍偉とし、為に宮観(1)を興し、父である白浄王(浄飯王)は、〔太子の息子が六年かかって産まれたことも、〕太子が偉大であるがゆえの珍事であるとして〔大い…

『弘明集』を読む(26)

牟子『理惑論』(17)仏伝⑥ とし じゅうしちにして おう ために のうきす なこくの おんななり年十七にして、王為に納妃す。那国(1)の女(2)なり。〔太子が〕十七歳のとき、父である白浄王(浄飯王)は、〔太子のために〕お妃さまを迎えた。隣国の姫であった…

『弘明集』を読む(25)

牟子『理惑論』(16)仏伝⑤ たいしに さんじゅうにそう はちじゅっしゅごう あり太子に三十二相、八十種好(1)有り。太子には、三十二相・八十種好〔という、聖人の相〕が現れていた。 【三十二相、八十種好】三十二相は転輪聖王(理想的な帝王)または仏にそ…

『弘明集』を読む(24)

牟子『理惑論』(15)仏伝④ ときに てんち おおいに うごき きゅうちゅう みな あきらかなり時に天地大いに動き、宮中皆明かなり。そのとき、天地が激しく震動し、宮殿のなかまで一気に明るくなった。 そのひ おうけの しょうえも また いちじを うむ其の日…

『弘明集』を読む(23)

牟子『理惑論』(14)仏伝③ ゆめに びゃくぞうに のる みに ろくげ あり夢に白象に乗る。身に六牙有り。夫人は、夢のなかで白象に乗っていた。〔その白象には〕牙が六本生えていた。 きんぜんとして これを よろこび ついに かんじて はらむ欣然(1)として之…

『弘明集』を読む(22)

牟子『理惑論』(13)仏伝② けだし きくに ほとけの けの かたち たるや蓋し聞くに、仏の化(1)の状為るや、〔わたくしの〕聞くところによれば、仏がこの世に現れ、〔人々を教化しつづけてきた、〕そのありさまというものは、 【化】化現(けげん)。仏や菩薩…

『弘明集』を読む(21)

牟子『理惑論』(12)仏伝① だいいっしょう ぶつでん第一章 仏伝(1)〔牟子『理惑論』〕第1章「ブッダの生涯」 【仏伝】釈尊(ブッダ)の生涯の伝記。 あるが とうて いわく ほとけとは いずれ より しゅっしょうせるや或るが問うて曰く、仏とは何れ従り出生…

『弘明集』を読む(20)

牟子『理惑論』(11)序伝⑪ あらそわんと ほっせば すなわち みちに あらず争はんと欲せば則ち道に非ず。〔このような世間の人々の非難に対して、牟子は、次のように思った。〕「〔非難に対して〕論争をしようと欲するならば、それは〔自分の求める〕真理(…

『弘明集』を読む(19)

牟子『理惑論』(10)序伝⑩ ゆえに たっとぶべきなりと故に貴ぶべきなりと。よって、〔老子は〕高貴なる人物なのだ。」 ここに おいてか こころざしを ぶつどうに するどくし是に於てか、志を仏道に鋭くし、このように〔牟子は〕考えるようになり、その生き…

『弘明集』を読む(18)

牟子『理惑論』(9)序伝⑨ これを ひさしうして ひきて おもえらく之を久しうして退きて念へらく、このようなことがあり、〔牟子は〕しばらくの間、〔次のように〕ひとり静かにもの思いに耽っていた。 べんたつの ゆえを もって すなわち しめいせらるるも弁…

『弘明集』を読む(17)

牟子『理惑論』(8)序伝⑧ ぼうし いわく ひれき ふくれき けんぐうの ひ ひさしければ牟子曰く、被秣服櫪(1)、見遇の日久しければ、牟子は〔交州の長官(州牧)に〕次のように答えた。「厩舎に飼われている馬のように、〔わたくしも〕長い間、ご恩を受けて…

『弘明集』を読む(16)

牟子『理惑論』(7)序伝⑦ おとうとは ぎゃくぞくの ために がいせらる こつにくの つうふん かんじんより はっす弟は逆賊の為に害せらる。骨肉痛憤肝心より発す。「〔わたくしの〕弟は逆賊(笮融)によって殺害されしまった。血を分けた実の兄として、〔実…

『弘明集』を読む(15)

牟子『理惑論』(6)序伝⑥ ぼくの おとうと よしょうの たいしゅと なり牧の弟、予章(1)の太守と為り、交州の長官(州牧)の弟は、予章の太守であったが、 【予章】予章郡。現在の江西省北部。 ちゅうろうしょう さくゆうの ために ころさる中郎将(1)笮融(2)…

『弘明集』を読む(14)

牟子『理惑論』(5)序伝⑤ ぼうし おもえらく えいしゃくは ゆずり やすきも しめいは じしがたし 牟子以為へらく、栄爵(1)は譲り易きも、使命は辞し難し。牟子は、〔次のように〕思った。「地位や名誉などというものは断ることは簡単だが、〔表敬訪問の〕使…

『弘明集』を読む(13)

牟子『理惑論』(4)序伝④ たいしゅ その しゅがくなるを きき えっして しょりを こう太守其の守学なるを聞き、謁して署吏(1)を請ふ。〔蒼梧の〕太守は、〔牟子が〕学問に非常に優れているという話を聞き、〔牟子を〕訪ねて役人になるよう頼んだ。 【署吏】…

『弘明集』を読む(12)

牟子『理惑論』(3)序伝③ ぼうし つねに ごきょうを もって これを なんずるも牟子常に五経(1)を以て之を難ずるも、牟子は、〔彼らに対して〕つねに〔儒教の経典である〕五経(『易経』・『書経』・『詩経』・『礼記』・『春秋』)を用いて道術士たちを批判…

『弘明集』を読む(11)

牟子『理惑論』(2)序伝② このとき れいてい ほうご てんか じょうらんし是の時霊帝(1)崩後、天下擾乱(2)し、この頃、霊帝が崩御されたことにより、世の中が乱れてきていたが、 【霊帝】後漢の第12代皇帝。 【擾乱】入り乱れて騒ぐこと。 ひとり こうしゅう…

『弘明集』を読む(10)

牟子『理惑論』(1)序伝① りわくろん理惑論世の人々の「無理解」を鎮めるための書 いちに いう そうご たいしゅ ぼうし はくでん一に云ふ、蒼梧(1)太守(2)牟子(3)博伝一説には、蒼梧の太守であった牟子博による注釈書 【蒼梧】蒼梧郡。かつて中国南部に存在…

『弘明集』を読む(9)

僧祐「序」(9)【完】 かねて せんかいに したがい ろんを まつに ふす 兼ねて浅懐に率い、論を末に附す。 僭越ながら、〔わたくし僧祐も〕鄙見を述べさせていただいた。巻末に『弘明論』(後序)として載せたものがそうである。 こいねがわくは けんあいを…

『弘明集』を読む(8)

僧祐「序」(8) その こくい じゃを きり けんげん ほうを まもる あれば 其の刻意邪を剪り、建言法を衛る有れば、 〔その選んだ基準としては、〕論主の主張が、邪説を刈り取るものであったり、仏法を守ろうとする言葉が書かれてあれば、 せい だいしょうと…

『弘明集』を読む(7)

僧祐「序」(7) ゆう まつがくを もってすれども こころざし くごに ふかし 祐、末学を以てすれども、志弘護に深し。 わたくし僧祐は、まだまだ浅学の身ではあるが、〔仏法を〕広め、守ってみせるという意気込みに関しては、誰にも劣らない。 せいげん ふぞ…

『弘明集』を読む(6)

僧祐「序」(6) まさに じゃくしょくの ともがらをして ぎべんに したがって ながく まよわしめ 将に弱植の徒をして偽弁に隨って長く迷はしめ、 なぜなら、知識のない者たちに、偽りだらけの理論を教え込むことによって、〔彼らを〕一生迷わせてしまうこと…

『弘明集』を読む(5)

僧祐「序」(5) それ かったんは よるに なくも はくじつの ひかりを ひるがえさず 夫れ鶡旦(1)は夜に鳴くも、白日の光を翻さず。 たとえ 〔夜明けを告げる〕ミミキジが夜中に鳴いたとしても、陽の光がさすことはないし、 【鶡旦】ミミキジ。ニワトリのよう…

『弘明集』を読む(4)

僧祐「序」(4) しゅぶんの こくじゅは すなわち こばんで いきょうと なし 守文の曲儒は、則ち拒んで異教と為し、 古典の解釈ばかりしている儒学者たちは、〔仏法を〕拒んで「異国の教えだ」と言い、 こうげんの さどうは すなわち ひきて どうほうと なす…

『弘明集』を読む(3)

僧祐「序」(3) だいほう とうりゅうしてより とし ほとんど ごひゃく 大法東流してより、歳幾んど五百(1)、 偉大なる仏法(仏の教え)が東方(中国)に流布してから、そろそろ五百年になろうとしている。 【歳幾んど五百】後漢の明帝の時代(57~75年)に…

『弘明集』を読む(2)

僧祐「序」(2) しかれども みち だいなれば しん かたく こえ たかければ わ すくなし 然れども、道大なれば信難く、声高ければ和寡し。 しかし、〔仏の〕真理(道)が偉大であればあるほど、信じることは難しくなり、〔仏の〕名声が高ければ高いほど、共…

『弘明集』を読む(1)

僧祐「序」(1) ぐみょうしゅう まき だいいち 弘明集 巻第一 〔仏法を世の中に〕広め、明らかにするための書 第1巻 りょう ようと けんしょじ しゃく そうゆう せん 梁(1)楊都(2)建初寺(3)釈(4)僧祐(5)撰 梁の首都・建康にある建初寺の僧侶・僧祐が撰述し…

Buddhist Narratology Laboratoryについて

はじめまして。もものりと申します。 このたびは、当ブログにお越しいただき、ありがとうございます。 ブッディスト・ナラトロジー・ラボラトリー(仏教物語研究室)では、 過去の叡知である仏典をひもときながら、 「答えのない時代」を生きるわたしたちに…