Buddhist Narratology Laboratory

「答えのない時代に、共に答えを作る」をモットーに仏典を読んでいきます。

『弘明集』を読む(16)

牟子『理惑論』(7)序伝⑦

 

おとうとは ぎゃくぞくの ために がいせらる こつにくの つうふん かんじんより はっす
弟は逆賊の為に害せらる。骨肉痛憤肝心より発す。
「〔わたくしの〕弟は逆賊(笮融)によって殺害されしまった。血を分けた実の兄として、〔実の弟を殺されたという、〕このどうしようもないほどの悲しみ、どうしようもないほどの怒りが、心の底から次から次へとわいてくる。

 

 

りゅうといをして いかしめんとするに あたり
劉都尉(1)をして行かしめんとするに当り、
騎都尉劉彦を〔とにかく早く予章へ〕向かわせたいのだが、

  1. 【劉都尉】騎都尉劉彦のこと。

 

 

がいかいの ぎなん ぎょうにんの ふつうなるを おそる
外界の疑難、行人不通なるを恐る。
他の州郡から疑われ、軍隊が通過することを許可してもらえないかもしれない。

 


きみは ぶんぶ けんびにして もっぱら たいさい あり
君は文武兼備にして専ら対才有り。
〔そこで、〕君は文武にわたって優れ、特に交渉の能力に関しては飛び抜けた才能を持っている。

 


いま これを れいりょう けいように あいくっし
今之を零陵桂陽(1)に相屈し、
今、その才能をもって、零陵・桂陽の長官のもとへ行き、頭を下げて、

  1. 【零陵桂陽】零陵と桂陽。いずれも、現在の湖南省南部に置かれた都。交州から予章へ進軍する際の通り道にあたる。

 

 

みちを つうろに からんと ほっす いかんと 
塗を通路に仮らんと欲す。如何と。
〔軍隊が領内を〕通過する許可をもらってきてもらえないだろうか。」

  

 

《今回のポイント》
弟を殺された悲憤はやるせないまでに、兄を苦しめる。早く軍隊を向かわせたい。しかし、他の州郡から少しでも疑われてしまえば、予章へ向かう道は閉ざされてしまう。そこで、弁論の才能があった牟子の才能を買って、「うまいこと話を進めてきてくれないか」とお願いをした。