Buddhist Narratology Laboratory

「答えのない時代に、共に答えを作る」をモットーに仏典を読んでいきます。

『弘明集』を読む(27)

牟子『理惑論』(18)仏伝⑦

 

ふおう たいしを ちんいとし ために きゅうかんを おこし
父王、太子を珍偉とし、為に宮観(1)を興し、
父である白浄王(浄飯王)は、〔太子の息子が六年かかって産まれたことも、〕太子が偉大であるがゆえの珍事であるとして〔大いに喜び〕、太子のために宮殿・楼観を建造させ、

  1. 【宮観】宮殿と楼観。楼観は、高いところから物を見るための建物。

 

 

ぎじょ ほうがん ならびに まえに つらねる
妓女(1)宝玩(2)、並に前に列る。
そこに多くの妓女たちを住まわせ、さまざまな宝物を並べた。

  1. 【妓女】中国における遊女、または芸妓。
  2. 【宝玩】珍しい品物。

 

 

たいし せらくを むさぼらず こころ どうとくに そんす
太子世楽を貪らず、意道徳に存す。
〔しかし、〕太子は、そういった世俗の快楽に興味がなかった。ただひたすら〔太子の〕心は「道を求める」ことに向いていた。

 

 

とし じゅうく しがつようか やはん しゃのくを よび
年十九、四月八日夜半、車匿を呼び、
〔太子が〕十九歳のとき、〔みんなが寝静まった〕四月八日の夜中に、〔こっそりと〕車匿(チャンダカ)を呼び出し、

 


けんだかを ろくし これに またがり
揵陟を勒し、之に跨り、
揵陟(カンタカ)を連れてこさせ、〔太子は揵陟(カンタカ)に〕跨った。

 


きじん ふきょし とんで しゅっきゅうす
鬼神扶挙(1)し、飛んで出宮す。
〔そのとき、〕神々が現れ、〔揵陟(カンタカ)に跨った太子と車匿(チャンダカ)を空中に〕持ち上げると、〔彼らを〕宮殿から飛び出させた。

  1. 【鬼神扶挙】鬼神とは、超人的な力をもつ存在を指す。「扶」は助けることを意味するから、ここでは、超人的な力をもつものが太子たちを持ち上げ、宮殿を飛び出す助けをしたということ。

 

 

《今回のポイント》
父王は、孫の誕生を大いに喜んだであろう。しかし、太子の気持ちは真逆を向いていた。そのまなざしはすでに世俗の栄華を見ていなかった。そして、ある日の夜中、ついに太子は家を出る決意をする。ここでは神々がその手伝いをしたとあるが、実際はチャンダカが手引きをしたのであろう。愛馬カンタカに乗って、太子は苦難の道への一歩を歩み出した。