『弘明集』を読む(13)
牟子『理惑論』(4)序伝④
たいしゅ その しゅがくなるを きき えっして しょりを こう
太守其の守学なるを聞き、謁して署吏(1)を請ふ。
〔蒼梧の〕太守は、〔牟子が〕学問に非常に優れているという話を聞き、〔牟子を〕訪ねて役人になるよう頼んだ。
- 【署吏】役人として任命されること。
ときに とし まさに さかんにして しがくに せいなり
時に年方に盛んにして、志学に精なり。
〔しかし、牟子は〕年若く、血気盛んで、学問を極めたいという希望に燃えていた。
また せらんを み しかんの い なく ついに つかず
又、世乱を見、仕宦の意無く、竟遂に就かず。
また、世の中が乱れているありさまを目をして、仕官しようという気持ちも起こらず、結局、〔役人に〕なることはなかった。
この とき しょしゅうぐん あいうたがいて かくそく つうぜず
是の時、諸州郡、相疑ひて隔塞(1)通ぜず。
ちょうどこの頃は、諸州郡は、お互いに警戒し合い、交通までもが止まってしまっていた。
- 【隔塞】道がふさがれて、交通が止められ、意思疎通もできないこと。
たいしゅ その はくがく たしきなるを もって けいを けいしゅうに いたさしむ
太守其の博学多識なるを以て、敬(1)を荊州(2)に致さしむ。
〔蒼梧の〕太守は、〔牟子が〕博学でさまざまな知識を持っているのを見込んで、荊州に表敬訪問の〔使節として〕派遣を依頼した。
- 【敬】表敬訪問。
- 【荊州】交州の北に位置する州。
《今回のポイント》
牟子は知識人としての能力を買われ、役人にならないかとの誘いが来たが、結局、当時の世の中が乱れていたこともあり、断っている。また、蒼梧の太守は、牟子に役人として勤めることについては断られたのにもかかわらず、今度は、他州への使節をしてくれないかと依頼をする。牟子が世間からかなり高い評価を得ていた証拠であろう。