『弘明集』を読む(1)
僧祐「序」(1)
ぐみょうしゅう まき だいいち
弘明集 巻第一
〔仏法を世の中に〕広め、明らかにするための書 第1巻
りょう ようと けんしょじ しゃく そうゆう せん
梁(1)楊都(2)建初寺(3)釈(4)僧祐(5)撰
梁の首都・建康にある建初寺の僧侶・僧祐が撰述した。
- 【梁】502~557年。南北朝時代の南朝の国。
- 【楊都】建康(現在の南京)の別名。
- 【建初寺】揚子江(現在の長江)以南で初めて建てられた仏教寺院。
- 【釈】「釈子」の意。名前の前につけて、仏教徒であることを表す。
- 【僧祐】生没445~518年。梁の時代の僧侶で、仏教の戒律に精通し、梁の武帝からも厚い信頼を得ていた人物である。仏教の護教的文献を集めた『弘明集』のほか、仏典からの引用のみで構成された仏伝である『釈迦譜』や、中国仏教伝来以来の訳経の歴史を明らかにした『出三蔵記集』などを著した。
じょ
序
はじめに
それ かくかい は かぎりなく えきょう は えんしょう なり
夫れ覚海は涯り無く、慧鏡は円照なり。
思うに、海のような〔仏の〕覚りは限りなく広く(弘)、鏡のような〔仏の〕智慧はまどかに光り輝いている(明)。
け は いきちゅう に みょうにして じつに ぎょうしゅん を とうじゅし
化(1)は域中に妙にして、実に堯舜(2)を陶鋳し、
その〔仏の〕教化というものは、中国においても不可思議なもの(妙)であって、陶器や鋳物を造るかのように、堯や舜のような明君を生み出し、
- 【化】教化。人を教えて導くこと。
- 【堯舜】中国古代の伝説上の帝王、堯と舜。徳をもって理想的な政治をしたので、後代の帝王の模範とされた。儒教では聖人とされる。
り は じゅひょうに ほしいままにして すなわち しゅうこう を えんしょくす
理は繋表に擅ままにして、乃ち周孔(1)を延埴す。
その〔仏の〕教理というものは、言語表現を自由自在にわがものとして、粘土をこねるかのように、周公や孔子のような聖人を生み出す。
《今回のポイント》
ここでは、仏の智慧の偉大さ・不可思議さについて、中国の明君や聖人を引き合いに出して表現している。