Buddhist Narratology Laboratory

「答えのない時代に、共に答えを作る」をモットーに仏典を読んでいきます。

『弘明集』を読む(19)

牟子『理惑論』(10)序伝⑩

 

ゆえに たっとぶべきなりと
故に貴ぶべきなりと。
よって、〔老子は〕高貴なる人物なのだ。」

 


ここに おいてか こころざしを ぶつどうに するどくし
是に於てか、志を仏道に鋭くし、
このように〔牟子は〕考えるようになり、その生き方(志)を徹底的に仏道に捧げるようになり、

 

 

かねて ろうし ごせんぶんを みがき げんみょうを ふくみて しゅしょうと なし
兼ねて老子五千文を研き、玄妙を含みて酒漿(1)と為し、
同時に、『老子』の五千言についても研究をして、その深く妙なる〔教え〕を、まるで美酒を嗜むかのように、味わい、

  1. 【酒漿】酒。

 

 

ごきょうを もてあそんで きんこうと なす
五経を翫んで琴簧(1)と為す。
〔これまで生真面目に取り組んできた〕五経を、まるで琴(こと)と笙(しょう)の演奏を楽しむかのように、〔自由に〕解釈した。

  1. 【簧】笙(しょう)の笛。雅楽に用いる管楽器のひとつ。

 

 

せぞくの ともがら これを ひとするもの おおく
世俗の徒、之を非とする者多く、
世間の人々の多くは、このように〔変わってしまった牟子の態度を〕受け容れることができず、

 

 

もって ごきょうに そむき いどうに むかうと なす
以て五経に背き異道に向ふと為す。
〔牟子の態度は〕五経〔の教え〕に背くものであり、異端の道に走ってしまったと非難した。

  

 

《今回のポイント》
牟子は、それでも道術士になることはなく、基本的には仏法を己の指針としつつ、『老子』の研究にも励んだという。また、これまで単なる学問として五経を学び、いわば教科書的にしか理解してこなかったが、世間での成功をあきらめた今、自由に解釈を加え、自分の思い通りに生きることができるようになった。しかし、そういうレールからはずれた者に対して、世間は冷たい。